死霊のえじき

85年/米 監督:ジョージ・A・ロメロ 出演:ロリ・カーディル、ジョナサン・アンプラス、ジョセフ・ピラトー


 ビデオ鑑賞。もちろんあの気のヌケた最終版だとか言うヤツではなく、サヴィーニさんがいい仕事してる方のバージョンです。しかしなんでこうロメロ神の映画はバージョン違
いが多いのか。どうせマニアは全部観ちまうよ!

 『死霊のえじき』(何度見てもひでえ邦題)はロメロ神のリビングデッド三部作の三作目。冒頭の白い壁からいきなり無数の黒い腕がガー!と出てくるシーンは、映画本編を観ていなくても昔の「欽ちゃんの仮装大賞」等でパロられてるのを一度は目にしてるはず。
 もう地上に人類はほとんど生存しておらず、ゾンビと人間の数の比率は40万対1。この絶望的な状況の中、地下の軍事施設ではわずかな科学者と軍人が打開策を求めて生活していた…。というのがストーリーというかおおまかな背景なのですが、一作目でベトナム戦争と公民権運動、二作目で消費社会を皮肉りまくっていた神の今回のテーマはズバリコミュニケーション不全。横柄な軍人と頭でっかちの科学者は常に対立。そしてそれぞれのグループ内でも仲間割れや不信が続く。日の光の一筋も射さない極限状態の中、全員が憎み合って暮らしておるのです。ああ窒息しそうな設定。唯一ヘリ操縦者の黒人と無線操作の出来るラテン系の技術者二人組だけが、冷静に事態を把握し文化的な生活をおくっている(居住スペースも分かれており、無味乾燥な施設内よりずっと人間らしいトレーラーハウスで生活している)。この二人は『ゾンビ』のピーターを二分割したようなキャラで、判断能力と戦闘力、技術力が備わっているホラー映画における最強のカード的役割(ラテンの方は若干ロジャーが入っているが、ずっとシニカルで冷静)。こういうキャラが居ると居ないとじゃホラー、特に量で攻めてくるゾンビ物は面白さがぜんぜん違ってくるのだ。ちなみに今作の裏テーマは「いざという時のため、手に職は付けておけ」(ウソ)。

 そんな中で誰よりも輝いているのが三部作最強にして最狂の人間キャラ、ローズ大佐です。でかい拳銃をばんばんブチかまし、「FUCK YOU!」を連発しながら人々を自分の圧政下に置こうとします。名前は可愛いのに性格極悪。粗野な横暴軍人を絵に描いたようなヒールっぷりが気持いい。しかし問題なのは、悪役として設定されているはずのこの人の言う事がいちいち説得力がある事です。人として平和な科学者チームに肩入れしたいんだけど、どう考えても彼らのやってる事はアホ。観客はイヤでも脳味噌ちんこの軍人チームの言葉に頷かざるを得ないという……。神、やっぱり性格悪い(そこがすき)。

 ついでにここでも主人公リサと、同じ科学者チームのミゲルのカップルが出てきます。が、これは全ての神映画に言える事ですが、どうしても恋人同士に見えない。『ナイトオブザ〜』の爆裂カップルですら説明されなきゃ兄妹みたい。『ソンビ』のフランとスティーヴンなんて、子までなしてるのにちっとも恋人同士の雰囲気がしないのだ(二人きりの晩餐のシーンですら。小説版にある濡れ場も寒いくらい乾いていた)。そして神の映画はカップルが無事生き残る事はない…。かならず二人とも死んじゃうか、かたっぽだけ生き残ったりする。性格悪い。しかしこの恋愛を信頼しようとしない姿勢は、個人的に非常に共感するのだった(何があったんだ)。

 この映画は製作にかなり難航したらしく、当初の予定よりかなりスケールダウン、脚本も大幅に変更したうえでの撮影だったらしい。神本人もあんま気に入っていないらしく、確かにストーリーは単調だし、雰囲気は暗いくせに演出が軽いのも気になる。見ものはサヴィーニのゲロゲロメイクですが、さすがにクライマックスだとそれも食傷ぎみになっちゃう。本来なら軍VSゾンビ軍団の、大砲爆弾使いまくりの大攻防戦となるはずだったそうで。アルジェントも噛むはずだったので、もし実現してたらエクストリーム・ジェットコースターホラーの秀作になってただろう。残念。

 で、私が全体的にも瑣末的にも問題の多い『死霊のえじき』を嫌いかというと、そうでもないのです。だってバブが居るんだもの。バブ、それは科学者チームの長であり、若干アルツが入っている気がしないでもない通称フラン拳博士によって訓練された「意思を持つゾンビ」!先ず、まるでエイリアンに表情を付けるがごとき愚行(エイリアン3参照)を本家本元が率先してやってるのが凄い。だけどバブは可愛いのだ。もう母性本能くすぐられまくり。それだけで許しちゃう。彼は元は兵士だったゾンビで、そのせいかとても頭とお行儀がいい。もちろん博士をはじめ人間を襲ったりしないし、音楽も聴く。しかもレベルアップすると拳銃も使えるようになるんだぞ(敬礼までしやがります)!なんか漢字とカタカナに全部ルビをふりたいような設定のキャラですが、博士への愛(バブというのは博士のお父さんのあだ名だと説明されているが、関係的には博士がママでバブは赤ちゃん)は本物。博士もアレになっているせいとはいえ、最大の愛情でもってバブを育てているのです。もちろん軍人チームにはそんな行為はただの×××の酔狂だとしか思えないし、同僚も博士のマッドっぷりには呆れ気味(この辺で本当に科学者チームがアホに見えてくる。40万対1の世界で、一人のゾンビを調教できたからって何だってんだ?)。そしてやがて来る終末の日。ここでのバブの行動は涙もんです。VSローズのシーンでは思わず「いけ!そこだバブ!」とWWFの観客のごとき頭の悪い応援をカマしたくなります。最後にビっと敬礼をキメる姿に、私はマンカインド(レスラー)の勇姿を重ねたね。これからどんどん殺伐として行く現代に生きるレディース&ジェントルメン必見の一本。


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