アメリカン・ナイトメア

00年／米＝英　監督：アダム・サイモン　出演：八百万の神々

　初めての六本木デビューが俳優座。しかも一人でこの映画。そんな事はどうでもいいんですが…。70年代のホラー映画を代表する監督たちへのインタビュー＆ドキュメント。人格形成をするにあたって良くも悪くも彼らの作品に多大なる影響を受けてきた私にとって、本当に神様のインタビューを観に行くような気持ちで鑑賞。というわけで上下ジーンズ（スーパーオタクアイテム・スパイダーマン柄のGジャンを実家に置いてきてしまったので仕方なく上着はデニムのライダーズ）、白塗り、黒マスカラ、スニーカー（notハイテク）、ビデオがいっぱい入った紙袋（仕事用。もちろん中身はフナイやアルバトロス製品）で正装してGO！出演した神々は、虚無の絶対神ジョージ・A・ロメロ、倒錯の歓喜天デヴィッド・クローネンバーグ、チェインソーの創造神トビー・フーパー、赤き海の支配者ウェス・クレイブン、死に魅入られた指を持つ魔術師トム・サヴィーニ、デニムの帝王ジョン・カーペンター、そのまんま恵比寿さまジョン・ランディスという面々。ちょっとアオリ入れてみたりして（恥）。
　時代を変えた数々の傑作がいかに当時のアメリカの情勢に影響を受けていたか（またはその逆）がどんな資料を読むより肌でビンビンに感じられて、映画的にも社会科的にも（笑）勉強になりましたよ。特にオオシマンはホラー初心者なので楽しめました。ベトナム戦争や公民権運動など、確かに言われてみりゃあの年代に作られたホラーには明確なメッセージがあった。もちろんリアルタイムで観たわけではないですが（というかリアルタイムで観ていた世代の子供ですが）、当時のアメリカがいかに混乱していたかが良く分かった。時折挟まれるニュース映像が凄く恐い。

　出てくる映画は『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』『ゾンビ』『悪魔のいけにえ』『シーバーズ』『鮮血の美学』『ハロウィン』などなど。どれも私が愛してやまない、第二の父親のような存在の映画です。何度見ても『ナイト・オブ〜』のラストは心臓を撃ち抜かれたような気分になるし、『悪魔のいけにえ』はおぞましくて美しい。トム・サヴィーニが「ベトナム戦争は特殊メイクのいい勉強になったよ」と言ってのけるシーン、「デパートの金物売り場が凄く混んでいて、目の前にチェインソーがあった。これを使えばここを出られると思ったよ」と語るトビー・フーパー。全てがリアルで、そしてワクワクする。ドキュメンタリーなのに最高にエンターテイメント。そして世間から非難され続けたホラー映画たちより、茶の間に流れていた暗殺や戦争の映像の方がよっぽど猥雑で恐ろしいという現実。まさにアメリカン・ナイトメア。

　ヨタ話的にはうふふシーンはやはりクローネンバーグ様でしょうか。哲学者のような研ぎ澄まされた風貌に美しすぎる淡いスミレ色の瞳（本当に薄い色で透き通ってて…彼の映画の登場人物のイメージぴったりの冷たい、張り詰めた美しい眼）。そんでもって「セックスには社会的な意味もあるんだ…」なんて語ってくれるんだからもう最高。奇跡のようなスケベです。ゴッド・オブ・ムッツリ（いやムッツリじゃないのかこの人は。具体化され過ぎちゃって一筋縄では理解できないだけで、ただただひたすらスケベなだけなんだろーな）。私もどスケベだがただスケベなだけで、クローネンバーグ様のような美しい創造物を造る事はまだできん。素晴らしいなあ。兎に角、たとえ嫁の貰い手が無くなろうが、私ホラーが、こういう映画が好きで本当に良かった。「内臓イヤ〜ン」とか言う女じゃなくて本当に良かったと思えた時間でした。あ、クレジットに音楽でゴッド・スピード・ユー・ブラックエンペラー！が出てたんだけど、BGMは全部彼らの曲なのかな。狂乱のレザーフェイスの姿に被さるエレキの音がとても素敵でした。

　そして良かった良かったと家路に着く途中、何か赤くて危険なものが食べたくなったので牛丼屋でキムチ牛めしかっこみ。満腹。会計。金がない。……マジかよ。パンフ買ってたの忘れてました。20代会社員、牛丼代が払えないの巻。思い切り困惑顔の店員さんを前にして財布を漁る私。20代会社員、身分証明書が無いの巻。どうする私。ここは家の近所だ。逃げてもアシが付く恐れがある。食い終わってから金が無いのに気付くなんて久々だったので、思い切り動揺する。どうしたか。答え：とっさに手にしていた『アメリカン・ナイトメア』のプログラムをカウンターに置き、「これ、凄い大事な本ですから！絶対取りに来ますから！」と叫んだ。……重ね重ね言うが私は20代の会社員（※当時）だ。中学生とかではない。成人してこのかた延々と年金から逃げ続けてはいるが、それでも立派な大人のつもりだった。この日までは。困りまくってる店員さんを尻目に私はダッシュで店を出た。

　ちゃんと払いました。心配しないで下さい。