ノー・マンズ・ランド

01年/仏=伊=英=ベルギー=スロヴェニア 監督・脚本・音楽:ダニス・タノヴィッチ
 出演:ブランコ・ジュリッチ、レネ・ビトラヤツ、フィリプ・ショヴァゴヴィッチ


 恥ずかしながらこの歳で自他共に認める超政治オンチの私。イランとイラクの見分けも付かないような状態なので、正直この映画を観るまでボスニア紛争と言うものが具体的にどういう事態だったのかよく掴めていませんでした(現在も異様に厚いパンフ読んで勉強中)。「民族浄化」のための組織的レイプなんて作戦がある事も知らなかった…恐い。
 しかしこの映画に関して言えば、舞台がどの時代のどの戦争であっても最高に刺激的で面白い話になっていたと思います。だから観終わったあと本当に全ての争いがアホらしく思えたし、恐くもなりました。いやほんま面白いんですよ!笑えるシーンもいっぱいある。というか全編滑稽な笑いに満ちている。戦争映画ってんで渋面作って観に行ったんですが、結構笑ってしまいました。でも逆にそのコミカルさが恐いのな。

 ストーリーはボスニア軍とセルビア軍の中間地帯にある無人の塹壕に取り残された、二人のボスニア兵と一人のセルビア兵を中心に進みます。片方のボスニア兵・ツェラは気絶した時身体の下に地雷を埋められてしまい、仰向けに寝転がったままピクリとも動けない状態。残りのボスニア兵チキと若いセルビア兵ニノは何とか助かろうと一時協力しあって脱出策を練りますが、頼りになるはずの国連軍は軍事不介入を言い訳になかなか腰を上げようとしないわ、焦ったチキとニノはだんだん険悪になるわ、ツェラはウンコしたくなっちゃうわで事態はカオス化していきます。嗚呼この先は書けねえ!すまん!

 普段オオシマンは吹き替えられたりカットされた映画やビデオスルー作品もこよなく愛し、映画館原理主義者を嫌ってすらいるのですが、この映画だけは劇場で観て本当に良かった。劇場の闇と静かさの中でこのどうしようもない明るさと笑いと絶望感を感じる事が出来たのはラッキーです。もっと早く観に行きゃ良かった…。
 チキとニノの間で繰り返される「お前の国が悪い!」「いやお前だ!」の問答。そして銃と一緒に目まぐるしく行き来する主導権。一人冷静なのが一番悲惨なツェラなんですが、寝返りすら打てない彼には事態をどうする事も出来ない。太陽は終始明るく照っていて、乾いた土地のはずなのに画面がイガラっぽくなく妙に綺麗に撮られているのも面白い。凄いソリッドな作りになっていて、全てのシーン、セリフが印象的。その中でもニノの「さっきはすまない。照準を定める相手に自己紹介なんて」というセリフはガーンと来た。

 ストーリーだけ見ると本当に悲惨などうしようもない話で、登場人物の中にも完璧な善人はいません。なのにキャラクターが皆魅力的で誰も憎めないのです。ボスニアもセルビアも国連もマスコミも、皆一様に親しみの持てる人として描かれている。かと言って誰か一人に感情移入できるわけでも無い。あーこれは特定のキャラクターに思い入れたり逆にストーリーだけ追えばいい映画ではなく、映画まるごとをそのまま受け止めなきゃならない映画なんだとエンドロール観ながら思いましたです(遅い)。一人でも多くの人に観てほしいな…偉そうな物言いですが。

 何と言うか、比べる事は出来ませんが観終わった後の感覚が「レザボア・ドッグス」になんとなく似てました。もちろんストーリーも何も全然違う映画なんですが。外国語賞どころか作品賞やってもよかったんじゃないのかアカデミー。こりゃ「アメリ」も負けるはずですよ。

 本当に、傑作だとか名作だとかいう言葉を使って形容したくないくらい、ひたすらとんでもない映画でした。観ろ!観てくれ!


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