ニンジャリアン

79年／米　監督：グレイドン・クラーク　出演：マーティン・ランドー、ジャック・パランス、ニンジャリアン

　高校時代悪友どもとバカ映画愛好会を結成していた私は、毎放課後日課のように学校近くのデパートでワゴンセールのレンタル流れビデオを漁っていたのですが、そのときメンバーの一人が歓声とともに差し出して来たのがこの一本。もうタイトルだけでご飯３杯は食える素晴らしさですが、原題は「without warning」。いわゆる片田舎宇宙人侵略もの。それでなんでニンジャリアンなのかというと、その宇宙人が使う武器がヒトデ型吸血手裏剣だから。ヒトデの裏っかわに牙と触手が付いてましてね、それがクルクル回転しながらどこからともなく飛んで来て人間様にビタッと吸い付き、生き血やら肉汁やらをジュルジュル啜るんですよ。わざわざ地球にまで飛んで来れるテクノロジーがあるのに、なんだかノンキな武器。ノーコンの宇宙人なんかうかつに使えなさそうですね。しかしこのヒトデ手裏剣の造型と特撮はけっこう良く出来てまして、牙と触手がグチュグチュ動くシーンとか、なぜか発光しながら闇夜を切り裂きグルグル飛んで来る場面なんてのは結構見どころです。なんか糸が見えてた記憶もあるんですが、だとしたらさらにポイントアップですな（確認したいが今手許にブツがない）。

　ストーリーはあってないようなというか、若い男女が湖畔にキャンプにやって来たらそこはニンジャリアンの狩猟場だったのでしたガビーン！　という、企画書がワラバン紙一枚で済んでしまいそうなソリッドなもの。で、肝心のエイリアンなんですがこいつが焦らしてるつもりなのかなかなか出て来やがらない。よおおく画面を見てると「ウォーリーを探せ！」のごとき巧みなかくれんぼで頭の隅っこや服の切れっぱしが見えたりもするんですが、こんないかにも予算とヤル気のない映画でそんな神経を使わせられること自体腹が立ちます。とりあえずダラダラと、パツキンおねえちゃんとマーティン・ランドー＆ジャック・パランス演じるGUY基地オヤジコンビ（キャラが被っててどっちがどういう役を演じていたのか忘れてしまいました）の暑苦しい逃走劇を一時間ほどタップリ見せてもらえます。しかし夜となり山小屋に逃げ込んだおねえちゃんが怯えながら各部屋を意味なく移動するシーンでやっと盛り上がってくるサスペンス。おせえよ。キッチンのような場所で背後から妙な気配を感じ電燈に頭をぶつけながら逃げるおねえちゃん。画面中央でブラブラ揺れる電燈。しかしそれを『トゥルー・ロマンス』のゲイリー・オールドマンのようにバシッと止める手が！　出たなニンジャリアン！　腕だけ！

　かように焦らし上手なニンジャリアンに女体を焦がされながらも物語は進行していくわけですが、私もなんせまだ生娘（だったと思う）の時分に一回観ただけなんでどうにも記憶がアヤフヤなのです。その後たぶんニンジャリアンはやっとこさ恥ずかしそうにその肢体を我々の前にさらし、ランドーだかパランスだかのどっちかが死に、若者の中で唯一生き残ったおねえちゃんとニンジャリアン（ひとりぼっち）と対決することになり、ほったて小屋にダイナマイトを仕掛けてブッ飛ばそうとするランドーだかパランスだかの計画によってロンリー宇宙人・ニンジャリアンはお空のお星様になりましたメデタシメデタシというような感じだったと思います。

　しかしこのニンジャリアンの造型というのがまたなんというか、曰く言い難いというか、何故か雨宮慶太テイストのするマスクに、中の人はたぶん照明さんと小道具さんが肩車しているとおぼしき微妙な全長。その上に天地創造の頃から存在していたようなボロ布をひっかぶってヨチヨチ歩く。だけ。我々はまだ年端も行かぬ小娘集団でしたが、このニンジャリアンを見たときだけは、全員が優しい大人の瞳をしていた気がします。

　ついでにニンジャリアンをマイトで爆発させるときにランドーだかパランスだかが囮になるんですが、その囮のなりかたというのがイカしてました。まず背中を丸め、両腕を広げ、ガニ股でフラフラとスウェーしながら「え〜いりあ〜ん！」と地獄の底から響くような声でシャウトし特攻していくというもの。これは我々のツボをおおいに突いて、その後しばらくはこのランドーだかパランスだかのマネが流行りました。嫌な集団。

　監督のグレイドン・クラークさんは他にも多数のどうでもいい映画を撮っていらっしゃるようです。不祥オオシマンも監督がホットなクラブシーンを舞台に、密林の女王とダンサー志望の青年の愛を描いた『愛と情熱のランバダ』を拝見したことがあるのですが、ラストにいきなり「この映画は熱帯雨林破壊に反対する意図のもと製作されました」なんてテロップが出てきて、なんていうかこう、目に水虫が出来そうな気分になりました。それにしてもこんなに長く書くつもりなかったのに。青春の思いで恐るべし。